世界の屋根といわれるヒマラヤ山脈、そのヒマラヤ山脈の中にブータンという小さな国があります。そのお隣は、お釈迦さまのお生まれになった国、ネパールです。私たちは、仏教はインドで起こったと考えていますが、生誕の地ルンビニー園は、地図の上ではネパールという国にあるのです。もちろん、その下には広大なインドが位置しています。文化の中心は、常にインドでした。

 

今から2000年近くも昔、仏教は、この山の中にも伝えられて来ました。そして小さいながらも、立派な仏教王国が出来上がったのです。それから今日までブータンは、山里であるがゆえに、大きな歴史の変動はありませんでした。ところが近年、このブータンにも近代化の波が押し寄せて来たのです。インド政府の指導と援助を受け、教育や文化、そして交通機関などの近代化が始まりました。

 

ところが1988年、突然この近代化に逆行するような法令が国王から出されたのです。それは、ブータンの国内にある200ヶ所もの仏教寺院すべてから外国人観光客を締め出すという法令です。世界中の人がびっくりしました。「なんて時代遅れな考えだ。これでは、いつまで経っても国際社会の仲間入りはできない」と非難したのです。事実、観光収入はブータンの国家財政の大きな柱でした。外国に対して門を閉ざすことは、それでなくても貧しい国をいよいよ貧しくしてしまいます。みんなが首をひねるのも無理はありません。

 

それに対してブータンの若き国王ワンチュクさんはこう答えたのです。「私たちは、一夜にして、国の近代化がなり、発展が出来るという間違いを犯そうとしていた。私たちの国にとって大切なことは統一と独立であり、それに最も重要なのは、宗教的な伝統である。急激な外国文化の進出により、伝統が顧みられなくなり、人々の心が腐敗しようとしています。寺院は観光のためにあるのではありません。心の平安のためにあるのです。それを守るためには、たとえ国家の収入が少なくなろうと、近代化のテンポが遅れようといたしかたないと思います。」

 

私はこの記事を読んで、目のさめる思いがしました。明治維新以来、世界に追いつけ、追いこせとばかりに近代化を急いだ日本の間違いを指摘されている気がしたからです。聞けば、この国の人々は、私たち日本人に体格も気質もよく似ているとか。学ぶべきことがあるとは思いませんか。