ある年の大晦日の晩のことです。太郎ベェさんとお花さんの夫婦は何年かぶりでお鏡を飾り、塩ジャケを買い、貧しいながらも幸せなお正月を迎えようとしていました。

 

 すると、どこからかシクシクと泣き声が聞こえてきます。不思議に思った太郎ベェさんがあちこち探すと、暗い屋根裏の隅の方に、痩せこけた汚らしいお爺さんがいます。「あなたは、どなたですか」と尋ねると「ワシは、昔からこの家に住みついている貧乏神じゃ、せっかくお前たちを苦しめてやろうと思ったのに、お前の嫁が来て一生懸命働くもんで、もう俺はおれんのじゃ」「それは気の毒ですなぁ」と同情した太郎ベェさん、貧乏神を囲炉裏のとこへ連れて来て「さあ元気を出して下さい」と、とっておきのお屠蘇を飲ませてやりました。

 

 やがて、ゴーンと除夜の鐘、その時表の戸をドンドンとたたく音がします。「誰だろう」と出てみれば、大きな袋を肩にかけ、でっぷり太った人が立っています。「やあ、おまたせしました。私は福の神でございます。本年からはこちらに住むことになりましたぞ。おやまあ、そこにいるのは誰かと思えば貧乏神。まだいたのですか。早く荷物をまとめて出て下さいよ」ところがお屠蘇で元気の出てきた貧乏神、真っ赤な顔でいいました。「なに言ってやがる。俺だって長年住み慣れたこの家だ。そう簡単には出るもんか」

 

 そこで2人の出ろ出ぬの押し問答がはじまりました。でも普段から粗末なものばかり食べている貧乏神、栄養満点の福の神にはかないません。とうとう戸口のほうへ押し出されそうになりました。あと一歩でという時です。どうした訳か貧乏神の力がグーンと強くなりました。福の神がひょいと見ると、なんと太郎ベェさん夫婦が貧乏神の後押しをしています。「貧乏神さん、頑張れ。よそから来た福の神なんていらないぞ、それ押せわっしょい」これをみた福の神、あまりの事にびっくり仰天、力が抜けてドーンと表に押し出されてしまいました。

 

 明けて、今日はお正月、太郎ベェさんとこの屋根裏にはお屠蘇で酔った貧乏神が安心した顔で寝ています。それからもこの夫婦はとうとうお金持ちにはなれませんでした。そのかわり、2人にはお金では決して買えない幸せが続いたそうです。