年と共に一日の経つのが速くなるように感じています。檀家のお爺さんに、その思いを話すと、「私なんて、もっと速く感じますよ。先が短いからでしょうかね」と笑いました。

 

 子供の頃には、まだか、まだかと待っていたお正月も、近頃では、もう一年が過ぎるのかと思うようになっています。老いも若きも、一日は二十四時間、一年は三百六十五日と同じなのに、どうして感じ方が、こんなに違ってくるのでしょうか。

 

 そんな疑問を解決しようと、心理学を専攻されている千葉大学の一川先生が、おもしろい実験をしてみることにしました。それは、一人ひとり、まったく外が見えないカプセルに入ってもらい、まっ暗な中で、スタートから三分になったと思ったら、その時、ボタンを押してもらうという実験です。実際に参加した人は三千人。その三千人の調査結果を見ると、大変興味あることが分かりました。

 

 それは、三分という時間を体で正確に感じとることの出来るのは、五歳前後の子供たちが最も多かったということです。そして年が上になるほど、ボタンを押すタイミングが遅れていくというのです。平均すれば、二歳から四歳ほど年上になると、ボタンを押すのが一秒ほど遅れるのだそうです。

 

 それを基に計算すると、四十歳になった人は、三分を十秒過ぎた頃に、ボタンを押すことになるのだとか。さらに、これを一年に換算すると、四十歳の人は、十二ヶ月が過ぎても、まだ十一ヶ月半しか経っていないように感じる計算になります。

 

 分かりやすくいえば、一年という時間が過ぎても、「うそだろう、そんなに一年が速いはずはない。俺の体の感覚では、まだ十五日残っているはずなんだが」ということになるのです。

 

 どうやら、これが年をとるほどに、一年を速く感じていくようになる体のメカニズムらしいのですが、一川先生は、その理由を、「人間は、年と共に食べ物や酸素を体内に取り入れ、それをエネルギーに変える速度が遅くなります。だから、それと共に実際の時間のスピードに感覚が追いつかなくなり、逆に一日の経つのを速く感じるようになるのではないでしょうか」と説明していました。

 

 それならば、これも老化現象の一つなのかと気落ちしていたら、今度は、時間学研究所という聞きなれない学問を専攻している山口大学の井上先生が、「年を取っても、時間を遅く感じるようになる方法があります」という意見を発表している記事を目にしました。「それには、なんにでも興味を持ち、脳を刺激することです」という先生の主張。そう心がければ、私たちのいのちのリズムも、自然の時間のテンポに歩調を合わせられるのだそうです。

 

 みなさん、今日も一日、頑張りましょう。