アメリカの北西部にイエローストーンという、アメリカで最も古く最も大きい国立公園があります。この公園の規模は、とてつもなく広く、日本でいえば、四国の半分くらいの面積を持つものです。そして辺り一面は、見渡す限り森と林におおわれ、中には大自然のままにいろんな動物や鳥たちが棲んでいます。

 

ところで1988年、このイエローストーンで大きな火災がありました。雷が落ちて発生した火は次々と燃え広がり、鎮火するまでに、3ヶ月もかかったのです。消火作業にあたった消防士の数は8,000人、焼失した森林は4,500平方キロメートル、なんと四国の4分の1に当たる面積が焼け野原となってしまいました。

 

アメリカならではのスケールの大きな災害ですが、興味のある話は、この後に続きます。それは、公園の管理当局が火災発生後、3週間は、燃えるにまかせてこれを放置したということです。これに対し、州知事は、「自然に火がおさまるのを待つなんて愚かなことだ」と遺憾の意を表明し、消防士たちも、ただちに消火活動をすべきだと非難しました。私達も、それが当然の意見のように思います。

 

ところが公園当局の考えは違っていました。「もし、今すぐ火を消そうとしても、一度起こった火事はなかなかしずまらない。私達は、まず火の勢いを観察し、いかに対処すべきかを考えた。というのは、火事も又、この大森林を育ててきた太古の昔からの自然のサイクルだからである。たしかに、現代は科学の力によって、火災をより小さな規模にくいとめることができるかもしれない。しかし、それによって、私達は自然の法則が大きくゆがめられることを恐れるのだ。消火に使われる化学薬品は自然を汚染し、ブルドーザーやヘリコプターは大地を傷つけてしまう。たとえ今、広い大地を焼き尽くしたとしても、自然に火がおさまった場合、大地はその生命力をいち早く回復するのである。森林は、自然のままだと、3・40年で立派にもとの状態によみがえる。だから結果を急ぐ余り、新しい生命、すなわち新芽が出てくる自然の条件を破壊してはならないと思う。私達は、常に大自然の生命の誕生の助産師でなければならない」

 

これが公園当局の主張だったのです。「だから、たとえこの冬、森の動物たちが食料に困ったとしても、特別のエサは与えない、この過酷な条件のもとで、本当に自然に生きる動物の生命力も養われるはずだからである」とも言っています。

 

私達人間も自然から生まれて来た生き物の1つです。こんなスケールの大きな考え方も大切ではないかと思ったのでした。