フーテンの寅さんといえば、渥美清さんが演じた国民的なアイドルでした。その寅さんの仕事は、お寺やお宮の縁日やお祭で露店を開き、行き交う人を相手に面白おかしく仕入れた品物を売ることです。そのセリフのおもしろさが今も心に残っている人も多いのではないでしょうか。

 

 そんな商売をしている露天商の仲間から「カンちゃん」と呼ばれている売り上げナンバーワンの人の口上をご紹介しましょう。カンちゃんは店を開くと、道行く人に「お客さん、人の運命は変わると思うかい、それとも変わらないと思うかい」と呼びかけるのだそうです。

 

 「これ見てちょうだい、この5円玉。これはそんじょそこらの5円玉じゃないんだよ。鎌倉は銭洗い弁天さまのお水で洗ったありがたい5円玉。これを身につければ財運が変わる。今日、この品物をお買い上げのお客には、このありがたい御縁の5円玉をさし上げます」と続けるのです。

 

 すると、「えっ、なんだって」と大きな声でサクラが寄ってきます。何度か、このセリフを繰り返すと、そこには人の輪が出来ます。するとカンちゃん、「お客さん、気をつけて下さいよ。こんな時にはスリも出る、わたしゃ長い間この商売やってるから、人の目を見りゃすぐに分かる。スリさん、そうと知ったら今すぐここを出ておいきよ。皆さん、騒がずに見送ってやりましょうよ」というから集まった人は離れにくくなるのです。

 

 そこで次なるセリフは、「私らの商売もインチキは多い」といろんなインチキの手口を話します。「だまされちゃいけませんぜ、だけど私まで疑われたんじゃ、泣くに泣けない。それじゃ銭洗い弁天さまに申し訳ない。どうです、お客さん、最初に買っていただいた方には、このありがたい5円玉を特別に2枚進呈しましょう」と切り出すのです。

 

 もちろん買ってくれそうなお客を見つけるのには【勘】が働きます。そして、それが成功すると、サクラが、「おれも買う、だから俺にも2つくれ、金運が変わるんだろう」というんだとか。するとカンちゃん困ったような顔をして、「ええい、今日は奮発するか。あるだけ、皆さんサービスします」というのだとか。

 

 これは河野守宏さんが書いた「人の心を読む法」(三笠書房)という本に載っていたネタです。たわいない話といえばそれまでですが、買い物をするにも、人と人との心のふれ合いが少なくなった現代です。なんとなく昔の日本の良さを思い出させてくれるのではないでしょうか。