ある病院に津田宇一という19才の少年が入院していました。彼は親の顔も知らない浮浪児です。

 

 14才の時に、育ててくれたそば屋を飛び出して、それからはお寺のお賽銭を盗んでは飢えをしのぐ暮らし、身体も心もボロボロになっていました。そして警察に捕まったのが1年前。身体は結核にひどくおかされ、もう手の打ちようがないという状態でした。このままではあと10日と命は持つまいという日のこと、この病院を三上和志さんという布教師が訪れたのです。

 

 講演の後、院長先生の頼みで、三上さんは宇一少年と対面します。声をかけても返事もしない宇一に1度は絶望して帰りかけた三上さんが、病室を出ようとして振り返った時、燃えるような瞳でこちらをにらみつけている姿を見て「こいつは寂しいんだな」と直感して病室に泊まり込み徹夜で宇一と語りあいます。

 

 なんとかして宇一の心の中に入ろうと考えた三上さんは、宇一が食べ残したお粥を口にします。結核菌のうようよしたお粥を食べるのには大変な勇気がいります。でも食べ終わった時、宇一がいいました。「おっさん、食べてくれたなあ」その言葉にたまらなくなって、三上さんは抱きかかえるように宇一の身体をなでてやるのです。

 

 「おっさんを、おとっつあんと呼んでいいか」と宇一は甘えます。「わしでよかったら返事するぜ」そう言われて「おとっつあん」と言いかけたら興奮して、血をはいたり、痰をはいたりしながら、やっと「おとっつあん」と言いました。それからはひと晩中、この言葉を言い続けたのです。

 

 夜が白む頃、「もう帰るんじゃろ、出て行く前に話をしてってくれ」という宇一に、三上さんはこんな話をします。

 

 「お前はもうすぐ死ぬかもしれない。でもローソクの火はな、自分の身を焼きこがしながら最後の最後までまわりを明るく照らすんだ。お前も残り少ない命を、今まで迷惑をかけた人たちを照らすつもりで燃やし続けるんだぜ」

 

 19才の短い幸せ薄い生涯ながら、死の直前、三上さんに出会った宇一は、笑顔で手を合わせながらその日、静かに息を引きとったのでした。