みんなに「お坊さんは、修行しているからストレスはないでしょう」とよく言われます。でも、正直なところ、私にだってストレスはあるのです。そこで今月はストレスの話をしてみたいと思います。

 

ストレスは、心や体に害悪をもたらすものだと一般的には思われています。ところが、高島博というお医者さんは「ストレスこそ生きている証、むしろ人生の大きなエネルギー源である」との説を唱えられています。そもそもストレスとは、物理学の用語で、バネに圧力を加えてこれを押さえつけようとした時、これに反発して、もとの状態に戻ろうとするバネの抑圧された状態を意味するのだそうです。押さえつけられたという意味においては、ストレスはマイナスの状態です。ところが、もとに戻ろうとする力を内在させている点では、大きなプラスのエネルギーを蓄えていることになります。先生はこの点に注目して、ストレスの利用価値を説かれるのです。

 

たとえば、お相撲さんの新弟子は、来る日も来る日も兄弟子にシゴかれ、投げ飛ばされます。これは、ちょうどバネが押さえつけられた状態と同じ、心理的にも肉体的にもストレスがたまり、ややもすれば、逃げ出したくなるかもしれません。しかし、その繰り返しによって、心身が鍛われていくのも事実なのです。一人前の関取になるか否かは、この状態を、嫌なものとしてのみ受けとめるのか、それとも跳ね返そうと積極的にぶつかるのかの違いによるでしょう。先生は、この跳ね返そうとする心こそ、ストレスによって生じるプラス効果だと主張されます。もし人生に全くストレスがなかったとすれば、人間はのびきってしまったバネと同じ、希望や願いというジャンプするエネルギーを生み出すことは出来ません。人間が人間らしく生きるのは、よりよく生きようとする目標があるからです。

 

 ところであなたは、サーカスのトラと動物園のトラとでは、どちらが病気にかかりにくく、長生きするとお思いですか。一方は芸を覚えるために、ムチでたたかれ、ストレスのたまる毎日、一方はのんびりと寝転がってエサを与えられるだけの毎日です。苦労するよりは、三食昼寝付きの方が長生きできると考えますよね。でも、実際は、サーカスのトラの方が、丈夫で長生きするのだそうです。それは、サーカスのトラの方には、目標があるからだろうと先生は話しておられますが、これは、私たち人間にも当てはまるのではないでしょうか。お釈迦様の「悩みこそ悟りの種」というお言葉をかみしめ、それぞれの目標にむかって生きたいものです。