俗に「親の七光」という言葉がありますが、私たちの周りには、親の社会的地位が高いからといって、自分までもが偉いように錯覚している子どもがいるものです。そんな子どもは、はたからみるとイヤな感じのするものです。ところが、周りの人たちは、ちやほやするだけでなかなか注意してあげません。だからそんな欠点には、本人は一向に気がつかないのです。

 

 アメリカの三十三代目の大統領であった、トルーマンについてこんなエピソードがあります。ある日の事、彼の娘が集会で歌うことになりました。歌を聴いた周りの人々は、われんばかりの拍手を彼女に送りました。彼女は心の中で、「自分は歌がうまいんだ」と得意満面になりました。そこで集会がすむと、すぐに父親の所に行って、今日の自分の歌が本当にうまかったかどうか尋ねたのでした。するとトルーマン大統領は、「うん、パパが大統領でいる間は、おまえの歌はじつにすばらしい評価を受けるに違いないよ」と静かに答えました。

 

「それなら、お父さんが大統領をやめたあとはどうなるの」と大統領の娘は、せきこむように尋ねました。「そうだなあ」しばらく考えていた大統領は、「権力の座を失った者に、人々がどんな態度をとるか、お前にも想像がつくだろう」と答えたのでした。

 

 いかにトルーマンが冷静な男だったとして、娘に対するわれんばかりの拍手を聞いて、嬉しくないはずはありません。

 

 しかし彼はその時、大事な事を娘に教えたのです。普通の親ならば、有頂天になって、子どもの才能を買いかぶって、前途をあやまらせやすいものです。世間には、あの人の子どもさんだからというので、ごますりやお世辞の拍手をする場合が少なくありません。トルーマンは、その点に気づいていました。

 

 だからこそ、トルーマンは「将来の事は、自分自身で考えなければいけないよ、お父さんはいつまでも大統領ではないんだから」と娘に願ったのでした。